教えて小山先生！第32弾の今回は「生理痛に肩こり、痛みのせいで頭が働かないのはわたしだけ？」そんなお悩みをVells編集部が小山先生に聞いてみました。
日々、酷い肩こりや生理痛などの痛みに悩まされている方は多いのではないのでしょうか？
この記事で、痛みが原因となるリスクについて学んでいきましょう。
小山 啓太
トレーナー歴20年。NATA-ATC。2020年よりエビジムのトレーナーに。
1978年1月22日生まれ。北海道札幌市出身。立正大学法学部を卒業後アメリカに渡り、エンポリア州立大学大学院スポーツ医科学専攻課程と、セントラルミシガン大学大学院運動科学専攻課程を修了。オリンピック選手やプロのアスリートのトレーナーとして活躍。障害者スポーツについて学び、帰国後は群馬大学にて教鞭を取り、運動と脳の働きを研究。２０１８年英国ケンブリッジ大学での世界教育会議にて最優秀研究発表賞受賞。プロアスリート、モデルや芸能人から一般の方まで幅広く正しい体の使い方、運動法や生活習慣の指導を行っている。
体や脳、運動に関する著書も多数執筆。『0歳からのボール遊び運動 "投げる"が脳と体を育む』『野球選手のTHE肉体改造』『現代社会のスポーツ総合学 1―スポーツとともに生きるエキスパート達の提言 (グリーンブックレット)』他
痛みは脳のあらゆる働きを低下させる
痛みを抱えながら仕事、家事、育児するのは大変ですよね。痛みは個人によってその感じ方や現れ方も異なるため、周囲からは理解されず、心ない言葉や態度で対応されることもあります。
もし、「生理痛くらいで・・・」、「肩こりくらいで・・・」と周りで言っている人がいても気にしないことが一番です。
痛みは脳の認知機能、記憶力、集中力を低下させ、あらゆる人間活動を阻害しますので、頭が働かず仕事に支障が出てしまうのは無理ありません。
科学的にも、痛みが脳の働きを低下させ、性格を変え、感情や思考に多大な影響をおよぼすことが分かっています。
痛みの経済損失は米で年間24兆円にも及ぶ
肩こり、腰痛を含む痛みの経済損失は米国でおよそ24兆円にのぼるとされます。データ算出法が異なるので単純に比較するのは難しいものの、日本でも痛みの経済損失は２兆円とも言われます。
痛みと経済損失の研究でしばし出てくるのが、アブセンティーズムとプレゼンティーズムです。前者が特定できる疾病疾患による病欠などから生じる損失であるのに対して、後者は不定愁訴を含むなんらかの痛みにより生産性や仕事効率が落ちることから生じる損失を現します。
このうち、経済損失のほとんどはプレゼンティーズムが占めており、痛みが軽視されていることが経済損失を大きくしていると言えるのです。
少しの痛みを軽視すると多くの幸福を失う
「ちょっと痛いくらい我慢！」と腰痛や肩こりなどを放置すると一人当たり年間で33万円も損することになるとも言われます。
経済損失だけではなく、痛みにより不快な気持ちで過ごす時間が長いほどあらゆる幸福感は失われる可能性があります。脳が変わってしまうことで性格までもが変わってしまいます。
優しい自分、笑顔の自分でいたくても、痛みがそれを許さないのです。こう考えると、痛みにより人生におけるあらゆる幸福を失いかねません。
痛みでイライラしてしまうのも脳が関係していた
最新の研究では、慢性的な痛みにより脳の前帯状皮質（ACC)が異常に活性されるとことが報告されています。前帯状皮質は行動調節、社会的認知、さらに感情や情動を担うとされるため、慢性化した痛みは感情のコントロールに悪影響を及ぼすと示唆されています。
生理痛や腰痛など、常に痛みと向き合うことは、単に気持ち的な問題で憂鬱になったりイライラするわけではなく、脳が情緒不安定な状態になっているということが関係しているようです。
痛みで記憶力や集中力も低下する
からだのどこかに痛みを生じると脳へ痛みの信号が届きます。これが続くと脳内で痛みを正しく処理する能力が低下し痛みを和らげる働きが弱くなり、ほんの少しの痛みに対してもとても敏感に痛みを感じるようになります。
その一方で、どのくらい痛むのかといった痛みの度合いや、どこが痛むのかといった正確な場所を特定できないなど、感覚などの処理能力が低下します。
他にも、痛みにより脳の記憶をつかさどる部分や、集中力に関係する部位の働きを低下させるという研究報告もあります。
会話がチグハグになったり単純なミスをしたりするのも痛みのせい！？
短期記憶が低下することで、普段であれば何でもない会話でさえも思うように意思疎通ができない可能性があり、そこから誤解が生じたり、単純なケアレスミスをしてしまったり、自身の能力とは関係ないところで痛みによって脳機能が低下し、それと気付かないばかりに不利益を被っているかもしれません。
運動は痛みから解放される一つの解決策になる
慢性的な痛みにより変化してしまった脳を癒してあげるには、脳のリハビリをすることが必要になります。いくつかのアプローチがありますが、家族、友人など心許せる好きな人とゆったりと時間を過ごすこと、余暇やレジャーを楽しみリラックスすること、また、薬に頼り過ぎることも避けるべきでしょう。
脳にはミラーニューロンという見ることで運動を学習したり、共感したりする働きがあります。このミラーニューロンを使うことで、左右のどちらかが痛いという脳の記憶に対してアプローチして、痛みがない側を動かすことで、動きには痛みは伴わないというデータをアップロードするという手法がしばし使われます。
腰の片側が痛い時や、片側のひざに痛みがある場合など、痛みがない方を積極的に動かすことで痛みのある方を改善するのも、運動を用いた痛み対処法の一つです。
肩こり首痛などに対しても、もちろん運動は主要な解決法の一つになります。姿勢を改善したり、骨格を矯正したり、動きやすいからだをつくる効果が期待できます。
運動は、リラックス法にもなります。ゆったりとした動きのストレッチから、筋トレ、ウォーキングなど、できる運動、楽しめる運動を使って脳を痛みから解放してあげましょう。
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主な参考文献
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