運動する目的の一つとして「ダイエット」があります。そこで重要なのが筋肉量と脂肪量の体組成です。キレイな体や肉体美を求めて痩せるためには、筋肉を増やして脂肪を落とす「リコンポジション(体組成の再構成)」しなくてはなりません。
筋肉が増え脂肪が減ることは、健康面でのメリットが多い他、運動能力や体力の向上などにもつながるため、アスリートから一般の方まで、すべての人の人生の質を高めるためにとても大切であると考えられます。
小山 啓太
トレーナー歴20年。NATA-ATC。2020年よりエビジムのトレーナーに。
1978年1月22日生まれ。北海道札幌市出身。立正大学法学部を卒業後アメリカに渡り、エンポリア州立大学大学院スポーツ医科学専攻課程と、セントラルミシガン大学大学院運動科学専攻課程を修了。オリンピック選手やプロのアスリートのトレーナーとして活躍。障害者スポーツについて学び、帰国後は群馬大学にて教鞭を取り、運動と脳の働きを研究。2018年英国ケンブリッジ大学での世界教育会議にて最優秀研究発表賞受賞。プロアスリート、モデルや芸能人から一般の方まで幅広く正しい体の使い方、運動法や生活習慣の指導を行っている。
体や脳、運動に関する著書も多数執筆。『0歳からのボール遊び運動 "投げる"が脳と体を育む』『野球選手のTHE肉体改造』『現代社会のスポーツ総合学 1―スポーツとともに生きるエキスパート達の提言 (グリーンブックレット)』他
トレーナーであればどんな人のボディメイクも助けたい
ボディビルディングやフィジークのコンペティターはもとより、トレーナーであれば誰もが気になるのが、どんな人のどんな状態であってもリコンポジションを成功に導き、体調を崩さず精神を安定させたまま、健康的に体脂肪を落とし筋肉をつけるを同時に達成することです。
「筋肉をつけたいけど太るのは嫌だ」というあなたに
しかし、先行研究でも言われているように、トレーニングによる筋肉量の変化は年齢や過去の運動歴などによって全く異なり、一緒くたにトレーニングと言っても、強度、量、種目などによって筋肥大刺激は違ってきますので、異色な要素を複雑に熟考しなければリコンポジショニングはなし得ません。
これまで多くの研究で言われているのは、太り気味で運動不足の人ほど、筋トレにより筋肉が増え、脂肪が減りやすい傾向が高いということでした。反面、すでに運動習慣がある人や、痩せ型の人では筋肉を増やしながら脂肪を減少することは難しく、筋肉をつけたいなら「一度太って体重を増やして筋肉をつけましょう」などと指導しがちでした。
とはいえ、筋肉はつけたいけど太るのは嫌だというのがクライアントの希望ですので、どんな人でも安全で健康的かつ理想的にリコンポジショニングに導いてあげるのが真のトレーニング専門家としての腕の見せ所です。
どんな人でも「筋肉増」✖︎「体脂肪減」を成功させるコンカレントトレーニングとは?
一般的に、筋肉を増やすには筋トレ(脂肪は効率的に落とせない)、反対に有酸素運動は体脂肪を落とすのに有効(だけど筋肉を増やせない)と考えられています。
これに対し、近年、多くの研究では筋肉を増やし体脂肪を減らすには、筋トレだけではなく、筋トレ✖︎有酸素を同時に行う(コンカレント・トレーニング)がもっとも有効であるとする報告が多くみられるようになりました。
コンカレント・トレーニングのポイント
筋肉を増やして脂肪を落とすためのコンカレント・トレーニングのポイントをいくつか紹介します。
1.有酸素運動の強度とタイミングを適切に
筋トレと有酸素運動を同時に行うとき、有酸素運動の運動強度によってタイミングを変える必要があります。軽度から中等度の有酸素運動の場合、高強度の筋トレの後に行うことでより多くの異なる筋肉を使い刺激することができます。
しかし、現代の科学では、なぜ一定の筋群分子シグナルが抑制され異なる筋群が活性するのか、それが全身への干渉から引き起こされるのかなど解明されていない点も多いのが事実です。したがって、上半身は筋トレして下半身はランニングなどでも同様な結果が生まれるかは更なる検証が必要です。
また、筋トレと有酸素トレーニングの間が3時間以上あいている場合は有酸素トレーニングを先に行っても、リカバリーが十分に行われ筋トレに必要なエネルギー出力が可能になり筋肉を増やす高強度運動が十分に行えると考えられます。
どのタイミングで行うことがより効果的にできるかに影響しますので、運動強度やリカバリータイムを考慮してトレーニングを設計しましょう。
2.ストレスを軽減する有酸素運動を活用する
高強度の運動は心と体へのストレスが大きく筋腱繊維の損傷や関節へのダメージリスクも大きくなります。したがって、高強度の筋トレに対しては、軽度の有酸素運動を行うことで更なる体へのダメージを軽減することがススメられます。
さらに、軽度有酸素運動は疲弊した筋肉群への血行を促進し、回復を促す効果が期待できます。エネルギー交換を促し代謝アップにも効果があると言われるため、長期的にリコンポジションを成功させるには軽度な有酸素トレーニングをうまく活用することがおすすめです。
3.ウォームアップで有酸素運動する
ウォームアップとして有酸素運動を行う人が多くいますが、その場合は最大心拍数(MHR)の60%以下に抑えることをオススメします。
仮に60%以上の強度で有酸素運動を行うと筋トレでの出力不足を招き筋肉量を増やす効果的な運動の妨げとなりますので、筋トレとは別の日に行うか、または筋トレとの間に十分な休憩時間を設けましょう。
MHR90%以上の運動を行うと筋トレと同様のエネルギー交換、出力システム、筋神経系と筋肉群が働きます。HIITトレーニングなどのインターバルトレーニングがその一つです。
ハーバード大学医学部は、ウォームアップは5分から10分で、徐々に呼吸が早くなる程度のゆっくりとした動きで、関節の可動域を広げ、全身の血行を促し、脳神経や心臓がこれから行う運動へ耐えられる心身の準備を促進する種目や方法を推奨しています。ジョギングや動きの緩やかな動的ストレッチ運動などが当てはまります。
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4.週に3回は筋トレを行う
高強度のトレーニングで筋肉に刺激を入れることは筋肉量アップには重要な要素です。しかし、週に3回だからといって連日続けて行うのではなく、適切なリカバリー時間を設けて筋肉の回復を促すことで、健康的で効率よく筋肉を増やすことができます。
筋トレは運動後も続く代謝を促しますので脂肪を落とすには重宝しますが、一方で体にかかるストレスも大きいので、クールダウンや栄養補給もしっかりと行いましょう。
筋トレメニューはしっかりと記録して、筋力アップの進行状況やその日のパフォーマンスの質がどうであったかなどをチェックしましょう。
筋力アップの進展がプラトーになったり、常に疲労感が抜けないという状態の場合、新たなアプローチが必要になります。リカバリー時間、トレーニングメニューや方法を見直すことで、ストレスをマネージメントして脳や神経系から賦活していきましょう。
5.クールダウンを必ずやる
筋トレ愛好者であっても怠りがちなのがトレーニング後のクールダウンです。クールダウンをしっかりと行うことで筋肉の回復と生成を促し、翌日以降の筋肉痛や全身の疲労を格段に抑えることができます。
トレーニングで上がった心拍数、呼吸、血圧をゆるやかに下げて行くことで、使った筋肉だけではなく全身の血行をよくして、血管内に疲労物質が留まるのを防ぎます。
また、トレーニングで興奮した精神を、ゆっくり動くストレッチなどで落ち着かせることは、脳神経を安定させ、心がリラックスすることで回復を促し、トレーニングを快適に継続するモチベーション維持にも効果があると考えられます。
ケガやバーンアウト予防にも、筋トレor有酸素運動関係なく、トレーニング後は5-10分時間を設けて必ずクールダウンを行う習慣をつけましょう。
リコンポジションに欠かせない栄養素とは?
体組成を改善する上で外せないのが食事です。しかし、食事は美味しく楽しく食べるのが大前提ですので、あまりにも細かくシビアに取り組むと精神的ストレスになってしまい人間としての根幹的な営みが蝕まれます。ですので、基本となる3回の食事と全体の栄養バランスを重要視しましょう。
先行研究では、筋トレを行うだけではなく、1日のタンパク質摂取を体重1kgにつき2g(体重60kgであれば120g)にすることで、体組成の改善を促す体内でのタンパク質合成を促進し、筋肉を増やし脂肪を落とす高い効果が期待できるとしています。
ある研究では、運動習慣のある被験者群で同じような高カロリー摂取であっても、タンパク質の量が多い群では顕著に脂肪が少なくなると報告しています。食事の中で良質なタンパク質摂取を増やすだけでもなかなか気をつけることが多くなりますので、まずはこれくらいからスタートし、継続するように心がけましょう。
フィジークなど競技者によくありますが、オフシーズンに筋肉量を増やし大会前に体脂肪を落としていくというリコンポジショニングを行いますが、カロリー摂取・栄養バランスとトレーニング内容を間違えると睡眠障害、ホルモンバランス変調、代謝異常などを招き、体調不良、イライラや集中力散漫など日常生活に悪影響を及ぼし、健康を害するリスクが生じてしまいます。過度なやり方は心身のストレスとなり、真に健康的とは言えません。
すべての人の「なりたい自分」を叶えよう
リコンポジションにはトレーニング量、種目、方法、それに栄養など多種多様な要素を個人に合わせて取り入れる必要があります。
特に注意するべきが、トレーニングの組み方です。正しいコンカレント・トレーニングで、「なりたい自分」を楽しみながら叶えてください!
参考文献
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Arazi H, Faraji H, Moghadam MG, Samadi A. Effects of concurrent exercise protocols on strength, aerobic power, flexibility and body composition. Kinesiology 43: 155–162, 2011.
Campbell BI, Aguilar D, Conlin L, et al. Effects of high versus low protein intake on body composition and maximal strength in aspiring female physique athletes engaging in an 8-week resistance training program. Int J Sport Nutr Exerc Metab 28: 580–585, 2018.
Haun CT, Vann CG, Roberts BM, et al. A critical evaluation of the biological construct skeletal muscle hypertrophy: Size matters but so does the measurement. Front Physiol 10: 247, 2019.
https://www.health.harvard.edu/staying-healthy/exercise-101-dont-skip-the-warm-up-or-cool-down