「こころ」と「からだ」が疲れている時こそ体を動かそう!プロとして良い仕事をするには「自分を大切にすること」|マット・マートン(MLBシカゴ・カブスコーチ、元阪神タイガース)

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今回インタビューをさせていただいたのは、過去に阪神タイガースに在籍していたマット・マートンさんです。

マットさんは、日本をこよなく愛し、いつも気にかけており、今まで自身が培ってきた運動やスポーツの経験を通じて社会に貢献していきたい思いから、米国でも指導者として活動しており、コロナ前には積極的に日本の少年少女たち対象の運動教室を実施していたため、今回のインタビューを受けて下さいました。

小山啓太
彼とは共通の友人を通して数年来の付き合いです。また、日本での運動教室などを一緒に開催するなど、地域スポーツ振興や育成年代の運動スポーツ活動の普及を行っています。

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マシュー・ヘンリー・マートンMatthew Henry Murton)

1981年10月3日フロリダ州出身。2003年ドラフト1巡目でジョージア工科大学からボストン・レッドソックスに入団し、04年にトレードでシカゴ・カブスへ移籍、05年にメジャーリーグデビューを果たすと06年にはレギュラーに定着しチーム最高打率を記録。その後、アスレチックス、ロッキーズなどでも活躍し、10年に阪神タイガースに入団。15年までのNPB6シーズンで首位打者1回、最多安打3回、ベストナイン4回と輝かしい成績を残した。帰国後はシカゴ・カブス、デトロイト・タイガースでメジャー復帰を目指すも17年に現役引退。18年からはMLBシカゴ・カブスの巡回コーチなどを務め、現在は高校、ユースなど育成年代の指導にも携わっている。

Q:現在はどのような活動をされていますか?

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2016年に米国へ戻り、現役引退後はMLBシカゴ・カブスの巡回コーチとして若手選手の指導を中心にやってきましたが、今季からは高校のコーチとユースチームの監督を務め、より育成年代の指導に力を入れて活動しています。

日本に行ったのは2019年の秋が最後になります。その時にも少年野球の指導など係らせていただき、たくさんの素晴らしい選手に出会うことができました。

Q:ご自身の子供の頃はどのような遊び、スポーツをやられていましたか?

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私の生まれ育った家ではスポーツが日常生活の中にとても大きな割合で存在していて、物心着いた頃には常に外で体を動かしていたし、2−3歳の頃には庭で父親が昔使っていたバットを振り回して遊んでいました。

父親が高校と大学で野球をしていたし、地域でスポーツ指導などの活動もしていたので、スポーツが常に身近にあり、庭でキャッチボールをしたり、父が投げてくれるボールを打ったりして、体を動かすことが本当に楽しく、夢中になって遊んでいました。

6歳の時には地域で盛んだったTボールを始めて、それが正式にスポーツに関わった初めての経験でした。

“スポーツ活動を通じて人間としてのホリスティックに成長できた”

私自身がスポーツ一家で育ったので、外に出て、体を動かすことをいつも促されていて、それがこころとからだの成長に欠かせないことなんだと言われなくても感じる環境でした。

プロとして、また今は高校生や少年野球のコーチとしてフィールドに立ち、スポーツ活動を通じて肉体と精神の極限に挑戦することは、多角的なアプローチによる人間としての総合的な成長につながると感じています。ホリスティックな成長というか、健康とか安定した状態とか、スポーツはまさにそれを可能とすると感じています。

Q:プロ野球選手になれた原点とはなんでしょうか?

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プロになる近道なんてなくて「僕にもできる」の積み重ねで一段ずつ登ってきた

子どもの頃に、庭でバットを振り回し始めて、父親にボールを投げてもらい上手に打てると褒められて「僕にもできる」と感じた。それを原点として、Tボールを始めて少し打てるようになると「僕にもできる」と感じる。

高校の公式戦でいい当たりを打てるとさらに「僕にもできる」と感じて、大学野球に進み、プロになってからも若手マイナーリーグから少しづつ「僕にもできる」と続けて、メジャーリーグに辿り着き、さらには海を渡って阪神甲子園球場の4万人の大観衆の前で「僕にもできる」と集中して打つことができた。この道のりは決して一夜で成し遂げられたものではないと強く感じています。

ほんとに小さな頃に、バットを握ったこと、そしてたくさんの失敗と上手くできなかった経験の中で、「僕にもできる」と正しいステップで一段一段登れたからこそ、アメリカでも、日本でもプロとしてキャリアを積めたと思っています。

もちろん、同じような環境にあったとしても同じような結果が生まれるわけではありません。文化的にも日本とアメリカには違いがあるとは思います。しかし、同様に共通する部分もあると思うんです。

Q:トレーニングについてはどうでしたか?

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「チーム主体で動く日本」と「個人を尊重するアメリカ」

私がジョージアの大学に進学し、プロになった時にはすでにウェイトトレーニングやコンディショニングトレーニングというものが野球選手にとってとても大切な練習パートであるということが現場でも研究分野でも示されていたので、大学時代からプロの育成現場でも、その教育も指導もたくさん受けました。この「考え」はアメリカでも日本でも同じでウェイトトレーニングや各種のトレーニングが野球の技術を高め、選手のパフォーマンスを引き上げると広く認知されていました。

しかし、実際の毎日の練習になると顕著な違いがありました。日本の練習はとにかく技術の反復練習が圧倒的な量を占めていて、投げる量、捕る量、打つ量が長時間で厳しい。アメリカでも反復練習はやりますが比になりませんし、厳しさの質が違います。

アメリカは選手個々がそれぞれに必要な練習で自分を伸ばして一つのチームにまとまるのに対して、日本はチームという一つの集団のために個々が集まっているという感じでした。日本は個人がチームに合わせてチーム優先に考えるところが強く、アメリカはそれぞれの個性と強みを尊重した上でチームをつくるといった感じだと思います。

双方に良い点、悪い点があると思います。幸運にも私は両方の環境でプレーすることができ、たくさん学ぶことができました。指導する場面では、両国の良いところを取り入れて若い選手たちに伝えています。

“感情をあまり表に出さない日本人にとって野球場は感情をさらけ出せる大切な場所”

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それはプロとしてプレーしていても感じました。日本のファンには本当に感動しました。多くの場面で、日本人は感情をあまり表に出さないことが多いと感じていました。特に怒りなどのネガティブな感情です。しかし、全国各地の野球場では大きな声で怒ったり笑ったり喜んだりしていて、日本のファンにとって野球場は感情をさらけ出せる大切な場所なんだと感じました。

また、ファン同士が一体となって球場全体で応援してくれるスタイルは、日本でプレーして初めて体験しました。毎回異なるスタイルの始球式イベントがあったり、外野席では応援団がそれぞれの選手の歌を歌い、チームの歌を歌い、みんなで野球を作り上げている。

アメリカは球場へ遊びに来て、家族や友人と社交の時間を楽しみ、野球を観ているのに対して、日本では、ファンも一体となってプレーしている感じでした。

Q:何かに秀でたプロになるのにもっとも大切なこととは何でしょうか?

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“人と同じでいる必要なんてない。何よりも自分を大切にしてほしい”

まずは自分を大切にしてほしい。自分の個性、自分の長所、人と同じでいる必要はなく、自分らしくスポーツだって上手になれるし、人間としても成長することができる。とにかく反復練習で量をこなし、痛くても投げ続け、打ち続け、その努力はかけがえがないし、素晴らしいという反面、「自分はダメだ」という自己否定に陥ってしまったり、痛いのを隠して体がボロボロになってしまう選手がいる。

甲子園で高校野球を見たときに、とても技術が高いと感じました。それはおそらく長い歴史の中で培ってきた伝統や文化に基づく指導法が高校球児を高いレベルにまで導いているのであろうと思います。しかし、どのチームも同じようでした。同じような選手がいて、同じような投げ方をするし、同じように打ち、同じような戦い方をする。高校野球という文化が若い選手を育てている一方で、傷つけてもいるように感じました。

“自己の能力を伸ばすには個性を尊重してくれる環境で多面的に努力すること”

反復練習で量をこなすことは大切ですが、おそらくバランスのとれた良い育成方法があると思うのです。正しいストレッチ、コンディショニントレーニング、メンタルトレーニング、あるゆる面から総合的に選手を育成する。自分の個性を尊重してくれる環境の中で挑戦していく。個性を押し殺さずに努力していると、長所だと思っていたことが実は短所であると気付いたりするんです。

“失敗したからと自分を責めるのではなく「自分にもできる」とあらゆる側面から考える”

野球には必ず勝ち負けがある。敗者が必ずいるんです。失敗もたくさんするんです。それが野球だし、人生も同じだと思うんです。そこで、どうするのか?負けたり失敗したらもっと練習をする。今まで以上にたくさん練習をする。自分のミスで負けたから自分が悪い、自分は下手くそだと自己を否定して、今まで以上に自分を痛めつけて練習する。他方では、ふてくされて練習しない、練習に身が入らない。

こうしたことを踏まえると、身体面や精神面、体調管理など、あらゆる側面から考えて、「自分にもできる」とモチベーションを高く持って、集中してグランドに立ち、挑み続けられるバランスの良い指導法があるはずなんです。それはスポーツも人生も同じはずです。失敗や困難に対峙するときに自分を否定して、自分を痛めつけるように努力していては身体と精神は傷ついてしまう。

スポーツで成功するには常に楽しいことばかりではない。だからこそ、なぜ練習をするのか、なぜウェイトトレーニングが必要なのか、それをしっかりと理解する指導や教育が不可欠なんだろうと思います。

Q:プロの世界で活躍するのに一番重要だったことはなんですか?

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“自分の叶えたい夢の舞台に続く場所にとにかく立ち続け、毎日全力を出し切る”

すべての人に可能性があり、能力があります。しかしもっとも大切なことは日々行動することです。どんなに頭の中で「こうなりたい」と思い描いていても現実にはなりません。叶えたい夢の舞台に続くグランドに立ち続けることです。そして毎日全力を出し切ることです。日々全力を出し切ることが幸運を呼び寄せるのです。

もちろん、日々努力していればプロになれて、プロの世界で活躍できるのかと言うとそうではありませんが、しかし、まず自分の能力と可能性を信じて、グランドに立ち続けて、何度でも諦めずに挑戦することは不可欠なことです。

Q:人間にとってなぜ運動が大切だと思いますか?

“疲れている時ほど体を動かすと心も体もやる気になる”

プロとして何年もプレーしていると体が鉛のように重く気分が優れない日もありました。とにかく疲れていて、もう体も心も思うように動かない。そんな時こそ早めにグランドに出て外野のフェンス沿いを走るんです。外野にあるレフトからライトのポール間を行ったり来たり、繰り返し走り続けます。そうすると全身に血液が回り出して体が動き出すんです。まるで新しい潤滑油を得たように動きがスムーズになっていくんです。するとテンションも上がってきてモチベーションが蘇ってくる。

今は現役を引退して指導者となりましたが、今でも何日も動かない日があると余計に体が重くなり、節々が痛くなります。日常生活を快適に過ごすためにも、運動すること、動くことで体調が整っていくのを感じます。それに運動することでよりリラックスできます。

Q:運動習慣を作るためにはどうすれば良いと思いますか?

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“運動に価値があるということを知ってもらう教育機会が大切”

これはアメリカでも同じことが言えるのですが、運動教育がとても大切なんだと感じています。運動にどれだけたくさんの効能があるのか、運動によって人生が豊かになるのか。科学の世界でも、先人の知恵としてもエビデンスがたくさんありますし、実体験からも感じています。

子どもの頃からそういった教育を受けていること、そして大人になってからも様々な場面で運動に触れられる生涯教育の場面を作っていくことがより多くの人に運動習慣を作る動機になると思うのです。運動、トレーニングには価値がある、それはプロのアスリートだけではなく、子どもからお年寄りまで全ての人に価値がある。その価値を伝えていくこと、家庭、学校、地域などさまざまな方面から運動の情報を広めていくことが重要だと思います。

Q:子どもを一流に育てるための米国式の育成方法の特徴などありますか?

“子どもの頃はさまざまな体験を通して困難に適応できる柔軟性を育む”

私は小学生の頃から野球の他にアメリカンフットボールをやっていましたが、中学2年生の時に首のケガをしてアメリカンフットボールはできなくなりました。そのため高校では、野球とバスケットボールのチームに所属していました。もちろん、遊びではテニスやゴルフも家族や友人と楽しんでいました。

高校のバスケットボールチームでは試合には出場していましたが目立つような選手ではありませんでした。しかし、野球以外にバスケットボールやフットボールをやっていたことで、アスリートとして瞬発力や俊敏性など運動能力を高められただけではなく、精神面でのリフレッシュや、柔軟な考え方を身につけられたと思います。

メンタル面での成長や健康のためにも、早い時期に一つのスポーツだけに絞り込まず、悩みを解決できる柔軟な思考、オーバーユースに陥らないプレー環境の配慮など、子どもの頃はいくつかのスポーツを同時にやるメリットは大きいと思います。複数のスポーツをやることで子どもの可能性も広がると思います。そうして、まだ気付けていない子どものスポーツの可能性を広げてあげて、大きくなってくると子ども自らが能力や好き嫌いに気付くので、それから一つのスポーツに全力を注ぐのでも遅くはないと思います。

“グローバル社会で壁を乗り越えられる視野の広い子どもに育てるために必要なこと”

私の経験ですが、野球以外のスポーツをやってきたことで、技術を習得する難しさや上手くできるようになるための方法を学べました。野球は比較的に得意であったため、それほど苦労せずに楽しむことができましたが、野球以外の不得意なスポーツでは、難しく感じることが多く、できないことも多かった分、どうすればできるようになるのか、それに向けてよく考えて、工夫して努力することをたくさん学びました。

その経験こそが、学年が上がり進級して野球のレベルが上がっていき困難に遭遇したときに、どのように工夫すれば良いか、どのように練習して乗り越えれば良いか、そして乗り越えるためのメンタル面での強さをどう維持すれば良いのかなどにとても生かされたと感じています。

“不得意なことにも挑戦することが好きなことで秀でるためのプロセス”

小さい頃は他の子よりも少し能力が高いとできるのであまり苦労せずとも結果が出ることが多いのですが、レベルが上がれば上がるほど工夫することや練習への取り組み姿勢、メンタルが重要になってきます。子どもが大きくなり、壁にぶち当たった時に柔軟に考えて乗り越えられるように、視野を広げてあげることが大切だと思うのです。

それは、勉強や仕事でも一緒だと思います。一つのことだけをやっているよりも、さまざまなこと、不得意なことや嫌いなことにも取り組むことが、本当に好きなことで秀でるために必要なプロセスなのではないかと思います。

私は、アメリカだけではなく、遠く離れた文化のまったく異なる日本でもプレーした経験から、自分の生まれ育った環境とまったく違うところで、言葉も通じない中でも、どんな逆境の中でもしっかりと結果を出していくために、小さい頃から壁を乗り越えられる視野の広さを養うことが大切なのではないかと思います。

永遠にタイガースのユニフォームを心から愛している

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日本にいた6年間良い思い出しかありませんし、日本の皆さんには感謝しかありません。私も家族もいつも心のどこかで日本を想っています。

そして、NPBの2021シーズンが開幕し、大変喜ばしいことにタイガースが幸先良いスタートを切れたことに興奮しています。今でもずっとタイガースのユニフォームを心から愛しています。

日本のプロ野球をはじめ、スポーツ界が大変な局面を乗り越えてさらに発展することをいつも祈っています。

 

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  • この記事を書いた人
啓太小山

Keita Koyama

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