ランニング学者の山西先生からコロナ時代における生き方・運動との向き合い方を伺いました。また、最後に心と体を動かす呼吸・運動方法もご紹介します。
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ランニング事始め。たくさん楽しむ心で始めよう|哲人ランニング学者からの手紙
前回に続き、ランニング学者の山西先生から「如何にランニングを始めるか?」を伺いました。 ▼第1回インタビューはこちら ランニング情報-編集顧問 山西哲郎 日本のランニング学者。市民ランニング指導の第一 ...
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山西哲郎
日本のランニング学者。市民ランナーの指導者。群馬大学名誉教授。東京教育大学大学院体育学研究科修士課程修了。日本体育学会元会長、日本オリエンテーリング協会会長、ランニング学会元会長、日本コンチネンス協会会長。鳥取県出身。
コロナ禍の日々が始まって、もう1年たってしまいました。そこで、私たちにとって今、再考しなければならないことは何でしょうか?それは、健康の歴史をさかのぼれば、近代文明によって、運動不足病が始まったことが浮かんできます。
酸素革命
産業革命が運動不足を世界に蔓延させた。
18世紀から19世紀に始まった産業革命は、機械化によって、移動手段、労働、生活が、合理的で便利な世界を作り上げました。しかし、やがて世界大戦が終った頃から、特に1950年代から、肥満や心臓病などのいわゆる生活習慣病が先進国で始まり世界中に蔓延して、いまだに続いています。
20世紀早々のドイツの生物学者のヴィルヘルム・ルーは生物の三原則として「機能は適度に使うと発達し、使わなければ委縮(退化)し、過度に使えば障害をおこす」説きました。それを現代人の運動不足に結び付け、運動医科学の研究者は身体の機能は「適度に使うと発達する」 「使わないと萎縮する」 「使いすぎると破壊する」を用いて、 あらゆる身体の器官や機能についても説明したのです。
運動不足解消には体の細胞に酸素を送る事
それは運動不足病といわれ、「エアロビクス運動」つまり有酸素運動として、生活の中に身体を動かす活動が乏しくなっているので歩く、走る、泳ぐ、サイクリングといった全身運動を取り入れ、空気中の酸素を体の60兆の細胞に送らなければならないと説いたのです。そして、我が国では健康の維持特促進のために、1日に8000歩と具体的な数字があげられています。
心身一如で動楽
しかし、身体的健康でも、例えば、気分が落ち込み、眠れない、疲れやすいといった症状が出て、憂うつになるという精神的な病も同時に生じてきました。
心身の調和を図る=心身一如
先日、善光寺の栢木(かやき)寛照大僧正とお話をしました。そこで「人間は心が先行しても、からだが先行してもダメで、心身一如、一如とは一体化、つまり心身の調和を図ることが仏教徒は大切にするのです」といわれました。そして、現代のコロナ禍はこのバランスが乱れ、健康の危機を迎えることになっていると強調されたのです。
「体を動かす」事は楽しく「心が動く」
私は、ちょうど10年前の東北大震災の時を思い出しました。震災間もなくして宮城に出かけ、その時、川の土手をひとりで走っているランナーに出会いました。そこで「走るのが楽しみです」という言葉に驚きました。そして、家を失って、公民館等で過ごしている方々に、体操や簡単な歩行を伝えると、笑顔で「久しぶりです。こんなに快適なのは・・」と、感謝され、困難な時こそ動くことが楽しいのだと感じました。
今回のコロナ禍の日々、外出の自粛、三蜜といった生活は青い空の下で日差しを浴び、風に触れながら、自由に快適に動くことが、なかなかできず、うつ的な心になりがち。
しかし、先日、隠岐の島の走友から葉書が送られてきました。
「隠岐の海にはウミネコが舞い、家の軒先にはワカメが干され、野山にはワラビ、タケノコが元気よく伸び、季節を感じながらのランニングは最高です」と、医療に携わっている松下耕太郎さんが青い海と緑の野山の風を心地よく走る風景が浮かんできました。
まさに「こころは心地よさを求めている!」と思えてきました。
心地よく動くこと
この心地よさは体を動かし、脳が感じた言語表現です。それは、体の手足や上体を適度に動かし、心地よさを感じるときは、筋肉と脳が対話うまくいき、体と心が一体化しているのです。
心身一如の運動とは・・・
私たち人間も自然の生き物であり、私は内なる自然であり、自然は外なる自然。きっと私が走っている時は、内なる自然と外なる自然が融合した時です。先ほどの松下さんの一文も然り。
そこで、まず内なる自然を心地よくする運動を呼吸と歩行でやってみましょう。
1)気晴らし深呼吸
コロナではマスクをしなければなりません。このマスク生活が1年以上にわたって続いているので、どうしても呼吸が制限されています。そして、運動やスポーツが不足し呼吸機能が衰えがち。そして、気分も晴れません。
室内の生活の時は、カーテンを開け、外の景色をながめながらの深呼吸を30分に一度で気分転換や気晴らしになり、そして、自分を見つめる瞑想になり、心の時間になるでしょう。
まず、マスクを外し、鼻と口で深呼吸。つまり息をする。息とは生きる証し。図のように「気晴らし深呼吸」には、「鼻呼吸」と「口呼吸」あります。
(1)「鼻呼吸」・・・肩・胸呼吸
- イライラの時に効果的。座位でも、立位でも、目を閉じる。
- 背筋を伸ばし、肩を上にあげ、2秒ほど鼻から息を吸い、2,3秒とめる。
- 息を鼻と口から4~5秒かけて、肩を下ろしながらゆっくり吐き出す。
- 嫌なことが浮かべば、それも一緒に吐き出す。
- 4、5回繰り返すと嫌なことは消えてスッキリ。そして、美しい風景や、楽しいことが浮かんでくれば、脳の活性化になっている。
(2)「口呼吸」・・・腹式呼吸
- 次に運動をやるとき、できれば立位で。
- 背筋を伸ばし、口から息をお腹いっぱいに、ゆっくり吸い、1,2秒止める。
- 少し前屈して口から息を6~8秒でゆっくり吐き、お腹のふくらみが減る
- 4、5回繰り返すと、体全体にあたたかく感じられる。
(3)ストレッチ体操の時も深呼吸。
体を動かしながら呼吸で、体全体がほぐれ、心の癒しになってくる。
2)気晴らしウオーキング・・・心で歩く
コロナ禍の運動は、まず他のスポーツや運動する前に、生活の一部として気晴らしウオーキングを取り入れることです。前述した体の有酸素運動として心肺機能や脚を中心とする効果と同時に気晴らしや瞑想になって、心の癒しとなるのです。
気晴らしウオーキングのポイント
- 歩くフオームは正しく、体全体で歩く(写真参照)
- 上体は直立。視線は50m先で視野を広くなるように。
- 腕振りL字型にして前後に振れば肩や上体がほぐれる。
- 足の動きは、踵着地で地面に足裏を転がすようにつま先まで動かす。
- 土踏まずの心地よさを感じれば、心まで良くなってくる
- 時々、立ち止まって、ストレッチ体操を一つでもやれば気分は変わる。
ウオーキングのフオーム
(2)シューズと道は快歩となるモノ、トコロ。
いつものシューズをワンサイズ大きく、道端に草花あれば美しく。
(3)歩楽。風景が良く、季節を感じる道を楽しむ。
公園があれば、中を通り抜け、いい風景があれば電車やバスを途中下車。そこで写真や俳句、スケッチなどで創作家。
(4)朝の道は目覚めウオーク、日中は気晴らし、夕方は疲労回復、夜は星と月の光といろいろな歩き方楽しみ方があり。
終わりに
18世紀のヨーロッパの作家や音楽家、哲学者は毎日、3時間も考えながら歩き、「あなたの書斎はどこですか」と聞かれると、「この路上です」と答えたといいます。
コロナが続いても、終わっても新しい生活スタイルができたと思える健康つくりと、楽しみつくりで、新しい心の動楽の世界をつくりたいものです。