自分にフィットする健康習慣を。フィットネス業界が日本の未来の健康に貢献できること。

シンクフィットネス 手塚社長

新型コロナウイルス感染拡大の影響や環境変化の激しい昨今において、フィットネスが世の中に貢献できることとは何か?

日本のフィットネス業界を牽引し続けるTHINKフィットネス 代表取締役社長の手塚氏にお話を伺いました。

手塚 栄司 氏

株式会社THINKフィットネス 代表取締役社長
1995年から米国 ゴールドジムフランチャイズ(GGF)社とフランチャイズ契約を締結し、今では日本最大手のフィットネスジムとしてGOLD'S GYMの運営を手がける株式会社THINKフィットネスの創業社長。

フィットネス業界は「ちょうど良い健康習慣」を根付かせるべく発展すべき

ー働き方や暮らし方の環境変化の大きい今の時代において、フィットネス業界が貢献できる事、果たすべき役割とは?

フィットネスは「トレーニング」だけを指すのではない。

まず、「フィットネス」とは何なのか? 私自身は、トレーニングや運動自体ではなく、「フィットする」「その人にとってちょうど良い健康習慣」だと考えています。

筋肉をつけるためのトレーニングやエクササイズだけでなく、マッサージやカイロプラクティック、リハビリなどの理学療法、健康を維持するための簡単なウォーキングや、日常生活における運動、さらには食事や睡眠に至るまで、「フィットネス」の領域だと思っています。

例えば睡眠については、単なる「休養」ではなく、身体的にも精神的にも「回復」の意味合いを持ったフィットネスの一部。そのように捉えると、「フィットネス」は決まりきったトレーニングの形を超えて、その人なりの生活習慣にフィットする様々な形があります。一人一人にちょうど良い「フィットネス」があるのです。

自分ひとりでは難しい領域はプロの知見も借りながら、自分にフィットした習慣がどんなものかを、個々人が模索していくことが必要です。

「介護のいらない社会の実現」がフィットネス業界全体で目指すべき所

私は1986年に創業し、96年頃から「介護のいらない社会」を目指して事業に取り組んできました。医療においても、今回コロナウイルスの感染拡大で、病院のキャパシティが見えてきています。

各自が若い頃から健康を維持していれば、やむを得ず治療や介護を必要とする人にその場を譲ることができる。「不足するや介護の現場の担い手を増やす」のではなく、「それを要する人を減らす」発想が必要です。

「今ある健康を維持する」こと。ゴールドジムにできることは、その内のほんの一部ですが、今後フィットネス業界は「フィットネス」を広い意味で捉え、日本の基幹産業として発展していかなければならないと思っています。

当社は培ってきたトレーニングノウハウを日本に還元していく

ーフィットネス業界を牽引する存在として、最大手GOLD'S GYMはどのような視点でフィットネスを広めてこられたのでしょうか?

私たちは筋トレの専門集団であり、そのノウハウは世界的にもトップクラスの先進性を持っています。海外からもプロが学びにくるほどです。そのため、サービスを提供できるのは、本格的なトレーニングをするごく一部の人です。

軽いトレーニングを希望する方には向きませんが、それで良いと思っています。業界全体でターゲットを棲み分けて、「その人にちょうど良いジム」を選んでもらえれば良いのですから。

私たちは、専門性を突き詰めることで、外からも専門的な知識が入ってくるような環境が出来上がっています。それを活かして、ボディビルだけでなく、様々な業界のスポーツアスリートのトレーニングの質の向上にも貢献しています。

その中で、「競技選手が怪我をしない体づくり」もサポートしています。パフォーマンス向上のためには専門トレーニングが必要ですが、怪我をしてしまってはパフォーマンスを発揮できませんし、選手生命を絶たれてしまうこともあります。

1990年筋トレ雑誌「IRON MAN」の創刊

私たちは元々、日本にまだトレーニングが普及してなかった1986年頃から、西ドイツから器具を取り寄せはじめ、市場をつくるために1990年から筋トレ雑誌『IRON MAN』の発行をはじめました。当時は海外で書いてもらった記事の翻訳を掲載しましたが、それだけでも、かなり多くの知識蓄積に役立ちました。

1995年 GOLD'S GYMの日本展開開始

しかし、徐々にトレーニング理論が分かる人が増えても、今度はトレーニングをする場所がない。そこで、1995年にアメリカに出向き、GOLD'S GYMのフランチャイズ契約を勝ち取って、これまで拡大してきました。

2009年 Woman's SHAPEの創刊

その後、『Woman's SHAPE』という女性向けの筋トレ雑誌も発行し、「マッチョになるのは嫌」とトレーニングを敬遠する女性に正しい知識を知ってもらうきっかけも作りました。

現在は半年に1回発行しており、美尻トレーニングで有名な岡部友さんの特集や、元ボディフィットネス東京チャンピオンの森弘子さんの出産後のシェイプアップの掲載など、「こんな風に体が変わる」というトレーニングによる変化を知るきっかけづくりもしています。

専門的なトレーニングを求めるお客様やトレーナー、知識が集まる場として、常に先進的なトレーニングを研究し続ける。そして、そのノウハウを他のスポーツ業界や女性も挑戦できるように広くシェアしていくことが、GOLD'S GYMが1番大きく貢献できることだと思っています。

「暮らしにちょうど良いフィットネス」を提供する為の活動

ー「個々にとってちょうど良い健康習慣」を広めるための展開や活動はされていますか?

気軽にタンパク質補給ができる商品の開発

本格的なトレーニングをされる方以外にも役立つものとして、『Plus PROTEIN & VITAMIN B』という商品も販売しています。食事や飲み物に混ぜて、簡単にたんぱく質補給ができるプロテイン商品です。どなたでも手軽に使っていただけますし、特に筋肉量の足りない高齢者の方にはおすすめです。

日常の行動でもフィットネスとして活用する事はできる

将来的には、住宅そのものをフィットネスの場にできたらという思いもあります。階段の上り降りをはじめ、思い立った時にフィットネスができるよう、意図的に負荷をかけられる仕組みのある住宅です。

場所や道具に制限されずに、その人の暮らしにちょうど良いフィットネスを続け、「人生の最後まで、自分の意思で体を動かす」こと。日常的な歩くという行為から、歯磨きなどの些細な行為に至るまで、「これもフィットネスだ」と捉えることができれば、活用できるものはいくらでも見つけられるはずです。

私は、フィットネスの場の提供だけでなくそういった考え方、習慣を伝えていくことも、フィットネス業界が担うべき役割だと考えています。

女性や高齢者にこそトレーニングを今勧める理由

ー『Woman's SHAPE』をはじめ、女性のトレーニング人口を増やすことにも貢献してこられましたが、今、女性や高齢者にこそトレーニングを勧める理由とは?

女性にとってのトレーニングは「自分の体を知る」きっかけに

女性は生理周期があり、ホルモンバランスによる体調変化があります。ワークアウトとリカバリーのタイミングやバランスを取る必要があるので、より一層自分にフィットした習慣の模索が求められます。大変な面もありますが、一方で、「自分の体を知ること」も楽しみのひとつではないでしょうか? 

人間は5歳頃の幼児期と、100歳近い高齢者では、男女の体に大きな違いはありません。限られた期間のみ、男女の差がある生命体です。例え、男性よりできなくても、若い人よりできなくても、「他人と違う自分の体」を楽しむこともフィットネスの楽しさです。

年を重ねた人は「自分の人生で経験した事を土台に身体を動かす」のもおすすめ

また、年を重ねた方も、スポーツを競技としてでなくエクササイズとして楽しんだり、健康維持のためと捉えて継続することが大切です。よく、若い頃やっていたスポーツを「プロになれないから」と辞めてしまう人がいます。それはとても勿体ないことです。

健康習慣を身につけようと、新たにジムに通いはじめても「若い方に教わるのが嫌」という気持ちから続かない人も多いです。無理に新しいことをしなくても、自分の好きなスポーツのやり慣れたトレーニング方法で体を動かす習慣を継続すれば良い。

トレーニング器具の中には、井戸汲みの動きを再現するマシンや、タイヤをひっくり返す「タイヤフリップマシン」なんかもありますが、かつて実際にそういった道具を使ってトレーニングをしてきた人は、体がその動きを覚えているものです。自分の人生で経験してきたことを活かすことも、「自分にちょうど良いフィットネス」には大切な視点です。

今は自分の身体に向き合うチャンスである。

ーこれからトレーニングをはじめようとする方たちに、メッセージをお願いいたします。

今の若い人が高齢者になった時は、今の高齢者より体力が衰えている

今の若い人が高齢者になったとき、今の高齢者よりももっと筋力や体力は衰えています。戦争を生き残り、農作業や子育てで体を使ってきた人たちと、デスクワークでほとんど体を動かさずに暮らしている人たち。数十年後に大きな差がでるのは当然のことです。将来自分に生じる変化を知っておくこと。そして、それを見越して今からできることを積み重ねなければなりません。

コロナ禍は健康に向き合う事ができる機会でもある

今、コロナウイルスに関する情報が毎日のように報道されていますが、「今だからこそ、自分の体に向き合え」という警告だと私は感じています。娯楽を楽しむのも良いけれど、自分の体に向き合うチャンスと捉えることで、10年後20年後リスクが回避できるかもしれない。

人の少ない公園で運動をしたり、エレベーターの密を回避するために階段を使用したり。自分の体と向き合うことで、選ぶものも変わってくるでしょう。今はカラオケなども避けられていますが、密を避けて体を動かす個人の空間として展開すれば、むしろ健康維持に役立つかもしれない。

「自分が自分を知れる場所」が、ジムだけでなく街中の至る所にできて、各自が当たり前に健康と向き合うことができたら、人々の健康は大きく変わっていく。「自分自身で自分の体を元気にする」ことができる人を増やしていけたらと思っています。

  • この記事を書いた人
小泉 優菜

小泉 優奈|KOIZUMI YUNA

暮らしの道具ブランド・レシピとコラムのサイト、「しゅじゅ」を運営。オリジナルの暮らしの道具デザインや、暮らしのカウンセリングをしています。その他ご依頼を受けて、デザイン・レシピ作成・撮影・イラスト作成・マンガ作成・ライティングなどもしています。

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